2020年3月22日,2周年を迎えるシャニマスから,4人の新アイドルと,彼女らで構成されたnoctchill(ノクチル)という新ユニットが発表されました。
これはシャニマスの生配信番組の2周年前夜祭SPで公開された情報なのですが,私はこれは見ていませんでした。そもそも私はシャニマスはやっていないので,そんなに積極的に見るものでもありません。しかし,配信当時のTLはシャニマスPのツイートで溢れていたので,ノクチルという名前も自然と私の目に入りました。
そして,その名前に強烈な既視感を覚えていました。ノクチル…ノクチル…?
その後,シャニマスの公式サイトが更新され,ノクチルのページも公開されました。
https://shinycolors.idolmaster.jp/idol/noctchill/
そこに書いてあるキャッチコピーにはこうあります。
”チルアウト・ノクチルカ”
ノクチルカ…Noctiluca…
夜光虫(Noctiluca scintillans)だ!!!!!
ユニット名のnoctchillと綴りが(由来も多分)違いますが,わざわざこんなキャッチコピーを作るあたり間違いなく意識はしているのでしょう。
また,ユニットの紹介文にある,「走り出す波を追って、少女たちは碧い風になる」というのも,後述する通り夜光虫が海の生き物であり,青い光を発することと関連がありそうです。
私はシャニマスについてはほとんど何も知らないのですが,夜光虫については近い生き物(夜光虫そのものではありません)を副業で専門にしているのでそれなりの知識があります。あと愛着もあります。夜光虫!!!!
ということで,本記事では夜光虫についてまとめていこうと思います(⁉)。
先月参加させていただいた第2回アイマス学会in札幌では,アイマスと宗教学を絡めた発表がいくつか見られました。それがアリならば,アイマスと生物学を絡めるのだってアリなのでは?と思い,記事を書くことにしました。
もしも,今後ノクチルを取り巻くストーリーに夜光虫が関わってきたとき,「夜光虫!!!!」ってなった方がきっと楽しいと思います。この記事がそのための予習になるかもしれません。ならないかもしれませんが。
夜光虫とは何か
夜光虫は海中に生息する単細胞生物です。分類学的には渦鞭毛藻の仲間に含まれ,最新の分子系統解析によると,渦鞭毛藻の中でも比較的原始的な部類に入るようです[1]。藻という字を含むグループに属していますが,葉緑体は持っていません。
ノクチルカというのは属名ですが,Noctiluca属には現在Noctiluca scintillansの1種しか認められていません[2]。Noctilucaはラテン語でNocti=夜,luca=光を意味します。そのまんま夜光虫ですね。ちなみにscintillansというのは火花みたいな意味があります。
夜光虫の最大の特徴は,何といっても青く光ることです。夜になると,海水が青く輝いているように見え,とても幻想的です。観光に利用されることもあるようです。
ただし,夜光虫は単細胞生物であり,目に見えないほど小さいので,1匹だけで海を光らせるほどの力はありません。局地的に大繁殖し,大群(ブルーム)を形成することで,海を一面光らせるまでになります。
では,そのブルームを昼間に見るとどんな感じなのかというのがこちらの写真です。
えっ汚な…
夜光虫のブルームは,いわゆる赤潮と呼ばれているものになります。そもそも夜光虫を含む渦鞭毛藻は,赤潮の原因生物として各方面から目の敵にされています。ちなみに臭いらしいです。
ついでなので,夜光虫単体を顕微鏡で拡大するとどんな感じなのか見てみましょう。
えっキモ…
主観になりますが,日常的にいろんな単細胞生物を見ている私からしても,夜光虫は割とキモいと思います。すみません。
どのように光るのか
夜光虫が発光するメカニズムについてです。
夜光虫の細胞内には,シンチロンという細かい粒状の器官が大量に存在しています[3]。この粒の中に,ルシフェリンという物質と,ルシフェラーゼという酵素が入っています。ルシフェラーゼはルシフェラーゼ結合タンパクと結合して,不活性化された状態で存在しています。細胞に物理的な刺激が加わると,電気信号が膜系を介してシンチロンに伝わり,pHが低下し,ルシフェラーゼとルシフェラーゼ結合タンパクを解離させます[4]。これによりルシフェラーゼが活性化し,基質であるルシフェリンの酸化反応を触媒します。この時,例の青い光が発生します。
…簡単にまとめると,ルシフェリンとルシフェラーゼが反応して光ります。
このルシフェリン・ルシフェラーゼ反応は,実は夜光虫に特有のものではなく,光を発する様々な生物で見ることができます(厳密には異なる物質を使っています)。例えばホタルや深海魚の一部などです。
なぜ光るのか
夜光虫が光を発することの適応的意義についてです。
夜光虫に限らず,発光性の生物が光を発するのは,一般的には餌をおびき寄せるため,もしくは外敵を退けるためであると言われています。また,ホタルは光の信号を個体間のコミュニケーションに使っているというのは有名な話です。
夜光虫の場合も,生きるために餌を食べなくてはいけませんし,逆に外敵に食べられる危険もあります。実際,発光することによって外敵からの捕食率を抑えているという報告はあります[5]。一方,夜光虫が光る理由については,結局よくわからないとする見方もあります[6]。
これに関連してひとつ面白い事実があるのですが,実は光らない夜光虫も存在します[2]。
先ほど,夜光虫はNoctiluca scintilansの一種のみと説明しましたが,同じ種でも地域によって変異があります。ポケモンで言うアローラのすがたみたいなものです。そして,アメリカ西海岸産の夜光虫は,ルシフェラーゼ遺伝子に部分欠損と発現抑制が見られ,さらに基質であるルシフェリンを生産していないため光らないらしいです。それはもう夜光虫ではないのではと思ってしまいますが,分類学上はれっきとした夜光虫Noctiluca scintilansであるらしいです。
これが意味するのは,夜光虫は別に光らなくても生きていけるということです。それでは普通の夜光虫はなぜわざわざ光るのか…謎ですね。
以上のように,夜光虫は幻想的で不思議な生き物です。
日本国内の海岸でも見られるので,時期や場所を調べて眺めに行ってみてはいかがでしょうか。これを読んだ皆さんなら,花火を見て炎色反応の説明を始める理系彼氏の夜光虫バージョンができると思います。ぜひ恋人にドヤ知識を披露してみてください。「これはルシフェラーゼがルシフェリンの酸化反応を触媒して光ってるんだよね~」
実はかくいう私も海が光っている現場を見たことがないので,いつか見てみたいと思っています。
ところで,
これシャニマスの記事だったってマジ?
マジです。
先述した通り,私はシャニマスをやっていません。
シャニマス自体には非常に興味があり,特に芹沢あさひというアイドルがとある理由でめちゃくちゃ気になっていました。どこかで始めたいなと思っていたのですが,タイミングが掴めずにいました。
そこで舞い込んできたのが今回の情報です。まさかこんな方向から攻められるとは思っていませんでした。いやシャニマス側もそんな方向から攻めたつもりはなかったのかもしれませんけど。
これはつまり,その始めるタイミングとやらが来たということなのかもしれません。 そして…
そして気が付いたら283プロダクションに入社して数か月が経過していました。
実のところ,純粋なキャラゲーが続いたことがほとんどないので,シャニマスも継続できるかはわかりません。デレマスもデレステが音ゲーだったからモチベが継続したみたいなところがあります。でもせっかくの機会なので,やれるだけやってみようと思います。
夜光虫がnoctchillにどう関わってくるのか,今から気になって夜も8時間しか眠れませんね。
もしかしたら,次回のアイマス学会ではノクチルについて発表する原生生物屋の姿があるかもしれません…。
参考
[1] Janouškovec J. et al. 2017. Major transitions in dinoflagellate evolution unveiled by phylotranscriptomics. PNAS 114: E171-E180.
[2] Valiadi M. et al. 2019. Molecular and biochemical basis for the loss of bioluminescence in the dinoflagellate Noctiluca scintillans along the west coast of the U.S.A. Limnol. Oceanogr. doi: 10.1002/lno.11309.
[3] Eckert R. 1966. Subcellular sources of luminescence in Noctiluca. Science 151: 349–352. doi:10.1126/science.151.3708.349.
[4] Rodriguez J. D. et al. 2017. Identification of a vacuolarproton channel that triggers the bioluminescent flash in dinoflagellates. PLoS One 12: 1–24. doi: 10.1371/journal.pone.0171594.
[5] Esaias W. E. and H. C. Curl Jr. 1972. Effect of dinoflagellate bioluminescence on copepod ingestion rates. Limnol. Oceanogr.17: 901–906. doi:10.4319/lo.1972.17.6.0901.
[6] 大場裕一・井上敏 2002 『渦鞭毛藻の発光』堀輝三・大野正夫・堀口健雄編「21世紀初頭の藻学の現況」,日本藻類学会,山形,p. 52-3.